絵馬ブログ

絵馬、絵馬堂についてのブログ。ほぼ月一回更新。/筆者:佐藤拓実/訪れた絵馬スポットの数:54(番外編:6)/ツイッター @EMA_blog_

法雲山東漸禅寺の馬頭観世音祭禮の絵馬屋

f:id:kotatusima:20210119194023j:plain

 

 埼玉県熊谷市石原の東漸寺(とうぜんじ)は正式には臨済宗妙心寺派法雲山東漸禅寺という。境内にある馬頭観音堂では毎年1月第3日曜日に祭禮が行われており、絵馬屋さんが出店していると耳にして行ってみることに。

 東漸寺へは遠方からだと秩父鉄道秩父本線の石原駅から15~20分歩くか、国際十王交通の熊谷駅~籠原駅のバスに乗り国道17号沿い(昔の中山道)の熊谷警察署前で下車して10分くらい歩いて行くことができる。

 東漸寺へ歩いていくと住宅街の通りの向こうから煙が立ち昇り、何かが燃える匂いとともに読経する声がこちらへ流れてきた。ちょうど馬頭観音堂の前で地域の方々が集まってどんど焼き左義長)をやり始めたようだった。お堂の前には立派な鞍が置かれていた。どういういわれがあるのだろう?「南無観世音菩薩」の幟も立っている。正月飾りや底が割られた達磨やが次々火の中へ投げ入れられ、特に松の飾りはよく燃えていた。

 馬頭観音堂は門の右手にあり、馬頭観音堂の裏手は境内地を利用した幼稚園が、門を入って左手、本堂の手前には墓域への入り口がある。住宅街の中に位置する東漸寺は門前の通りがまっすぐ国道140号に通じており、境内にはお地蔵さんや庚申塔馬頭観音の碑などがいくつも設置されていた。初めて訪れたが「古くからこの地域で親しまれてきたお寺さん」という風情が感じられた。

 

f:id:kotatusima:20210119193427j:plainf:id:kotatusima:20210119193833j:plainf:id:kotatusima:20210119194541j:plain

(境内の様子)

 

f:id:kotatusima:20210119193848j:plainf:id:kotatusima:20210119195805j:plainf:id:kotatusima:20210119200025j:plainf:id:kotatusima:20210119200222j:plain

 

 馬頭観音堂のすぐ横ではだるま(高崎だるま)が売られており、その奥で絵馬が売られていた。どんど焼きを見るにおそらくだるまと絵馬のセットが毎年恒例になっているのだろう。

 

 

 

・絵馬屋

 

f:id:kotatusima:20210119203425j:plainf:id:kotatusima:20210119205710j:plainf:id:kotatusima:20210119205700j:plain
f:id:kotatusima:20210119205344j:plainf:id:kotatusima:20210119211048j:plain

 

 絵馬屋さんはご夫婦で折り畳みの事務テーブルに絵馬を並べて売っていた。絵馬屋のおじさんによれば、もともと門前の参道では草競馬も行われ近隣の農民による素朴な絵馬屋も出ていたが一度途絶えた。それを絵馬屋のおじさんが父と二人で東漸寺の庫裡の天井画を描いたのがきっかけに、先代の住職から声をかけられて1975(昭和50)年ころに復活させ、以来45年間絵馬屋をやっているという。

 色鮮やかな絵馬は、秋田杉の上に日本画の画材(膠や顔料、胡粉などだろう)で絵を描いている。印章が入っているものもあって立派だ。サイズは二種類あってすべて手描き。大きい方は1辺が30㎝くらいの正方形で上辺と左右の辺に縁がつけられている。裏返すと小さい釘で縁が付けられているのがわかる。接着剤が併用されているかはわからない。小さいほうは長辺30㎝左右の辺が20数㎝くらいの五角形になっていて縁はない。絵柄は馬と干支の丑を描いたものがあった。よく見ると馬や丑の姿態や色はどれも微妙に違っていてこだわりが感じられた。今では絵馬を描く人も少なくなっているため、声をかけられて東松山市の上岡観音絵馬市の絵馬も近年では描いているそうだ。東漸寺は絵柄が決まっていないため自由にできるとおっしゃっていた。上岡観音絵馬市は昨年行って絵馬を何枚か入手したので私が持っている絵馬にも東漸寺の絵馬屋さんの手によるものが含まれているかもしれない。

 

emaema.hatenablog.jp

 

 絵馬を買うと、その場で祈願内容など文字を入れてくれる。昨年から疫病が流行り、いまだ収束の見込みはない。今年はやはり私のように無病息災や家内安全を願う人が多いのだろうか。私も大きい絵馬を1枚買って日付と無病息災の文字などをいれてもらった。近所にお住まいと思しき方が次々と訪れ絵馬を買っていて、文字入れを待つ絵馬がいつの間にかテーブルに積まれていた。この絵馬は本来は馬頭観音堂に奉納するはずのものだが材質も絵も立派だからだろう、私は持ち帰ってきてしまったし、私以外の参拝者の方々も持ち帰っているようだった。

 地域の方々に親しまれて絵馬屋さんが長く続いている様をお邪魔して見ることができ、新年から故郷に帰ったようなとても暖かい気持ちになった。

 

f:id:kotatusima:20210119211226j:plain

 

 

 

 (終)

 

 

 

臨済宗妙心寺派法雲山東漸禅寺(東漸寺)・・・埼玉県熊谷市石原334

 

 

慈雲山妙安寺馬頭観音(武州上岡観音)の絵馬市の習俗

f:id:kotatusima:20200530121857j:plain

(上岡観音)

 

目次

・上岡観音の概要

・交通手段

馬頭観音堂の様子

・小さな絵馬掛けと幔幕

・絵馬市

・そのほかの境内施設

・参拝の様子

・まとめ

・(追記)2021年の様子

 

 

・上岡観音の概要

 

 埼玉県東松山市にある慈雲山妙安寺境内の馬頭観世音は「武州上岡観音」として古くから牛馬と関わる農家から信仰され、関東随一の馬頭観音霊場と言われている。毎年2月19日の縁日には全国的にも珍しい絵馬市が立っている。絵馬を描く者と売る者とで構成された「絵馬講」は売り上げの減少により昭和63年を最後に活動を停止し平成3年に解散したが、現在では保存会が活動を続けている。平成10年12月1日には国の選択無形民俗文化財に指定された。

 (参考 東松山市 東松山上岡観音の絵馬市の習俗:http://www.city.higashimatsuyama.lg.jp/soshiki/kyoikubu/bunkazai/menu/shitei_bunkazai/1466557570232.html

 

 私は今まで2019年~2021年の3回、絵馬市を訪れた。写真も交えてその様子を以下で紹介していこう(ほとんど2019年の写真だが一部2020年の写真もあります)。2021年の様子は記事の最後に別項目で追記しています。

 

 

 

・交通手段

 

f:id:kotatusima:20200529201648j:plain東武東上線東松山駅

f:id:kotatusima:20200529201704j:plain(駅前のバスターミナル)

f:id:kotatusima:20200529201719j:plainf:id:kotatusima:20200529201654j:plain

 

 最寄り駅は東武東上線東松山駅。ここからバスで20~30分ほどで最寄のバス停「上岡」に着く。

 

 

馬頭観音堂の様子

 

f:id:kotatusima:20200530121904j:plain

(2020年、絵馬市が始まる直前の様子)

f:id:kotatusima:20200530122042j:plain

(これは2019年の様子)

 

 石の門柱の左右には大きな幟が立ち、参道にはたくさん赤い幟が並んでいる。2020年は絵馬市が始まる少し前に着いたのでまだあまり人がいなかったが、あとから続々と参拝者や観光客が訪れた。まずは馬頭観音を拝む。

 

f:id:kotatusima:20200530122051j:plainf:id:kotatusima:20200530123300j:plainf:id:kotatusima:20200530123654j:plainf:id:kotatusima:20200530123635j:plainf:id:kotatusima:20200530134239j:plainf:id:kotatusima:20200530123647j:plainf:id:kotatusima:20200530134249j:plainf:id:kotatusima:20200530134039j:plainf:id:kotatusima:20200530134048j:plain
f:id:kotatusima:20200530124708j:plain
f:id:kotatusima:20200530123815j:plainf:id:kotatusima:20200530124604j:plainf:id:kotatusima:20200530124624j:plainf:id:kotatusima:20200530124634j:plainf:id:kotatusima:20200531055326j:plainf:id:kotatusima:20200530124752j:plainf:id:kotatusima:20200530135152j:plainf:id:kotatusima:20200530135110j:plain


 馬、馬、馬。屋根に、柱に、梁に、いたるところに馬がいる。

 

 

・小さな絵馬掛けと幔幕

 

f:id:kotatusima:20200530123802j:plain

f:id:kotatusima:20200530123911j:plain

f:id:kotatusima:20200530123931j:plain

f:id:kotatusima:20200530124514j:plain

 

 馬頭観音の向かって左手に小さい絵馬掛けもあった。ここにかかっている絵馬は絵馬市で売られているものとは違う。普段授与されているものか?

 

f:id:kotatusima:20200530123943j:plainf:id:kotatusima:20200530123843j:plainf:id:kotatusima:20200530124432j:plainf:id:kotatusima:20200530124158j:plainf:id:kotatusima:20200530124046j:plainf:id:kotatusima:20200530124032j:plainf:id:kotatusima:20200530124131j:plainf:id:kotatusima:20200530124147j:plainf:id:kotatusima:20200530124419j:plainf:id:kotatusima:20200530124140j:plainf:id:kotatusima:20200530124403j:plainf:id:kotatusima:20200530124016j:plainf:id:kotatusima:20200530124318j:plainf:id:kotatusima:20200530124326j:plain

 

 明治31(1898)年に奉納された立派な幔幕も見どころだ。落款は「東京下各?之?國住 応需 喜笑軒周宗筆(方印)」。詳細不明。以上の幔幕の写真は2019年のもの。2020年は位置が変わっていた。

 

f:id:kotatusima:20200530123201j:plain

(2020年の様子)

 

 

・絵馬市

 

f:id:kotatusima:20200530225820j:plain

 

 絵馬市がメインだが他にもダルマ屋や鍛冶屋、軽食の露店がたくさんでていて賑やかだ。

f:id:kotatusima:20200530123340j:plainf:id:kotatusima:20200530123344j:plainf:id:kotatusima:20200530123318j:plainf:id:kotatusima:20200530123330j:plain

 

  小絵馬は台の上にけっこう乱雑に積み上げられている。形はやや横長の方形で、黒く塗った薄い木片を上の辺では左右に、左右の辺は下に飛び出るように額縁のように、おそらく接着剤で貼っている。同一の図柄でもすべて手描きで、余白には必ず「武州上岡観音」の判が捺されている。

 絵柄は大別して馬と牛の二種類あり、わずかに豚の絵馬もあった。馬の色は明るい茶、こげ茶、白のほかファンシーなピンク(!)も近年描くようになったそうだ。牛の色は黒か白黒の斑紋(ホルスタイン種)のみ。豚の色は薄いピンクや黒があるらしい。馬は鮮やかな馬具を身につけた姿で描かれるが牛は鞍などはなく口取り縄程度が簡素に描かれる。また空の表現なのか、牛や豚の上方には朱や黄色の横線が描かれている。かつてはトラクターの絵馬などもあったらしい。

 以前は農耕馬のお守りであったのが近年では畜牛や乗馬クラブの馬のお守りとして買い求める人が多いとも聞いた。馬を飼っている方が、ご自分の馬と同じ毛色で描かれた絵馬を買う様子を見かけた。

 絵馬講の方々は紺の揃いの法被を着ていてかっこいい。

 ちなみに上記の写真は2020年のものだ。

 

  

 

・そのほかの境内施設

 

f:id:kotatusima:20200530123430j:plain

f:id:kotatusima:20200530123441j:plain

f:id:kotatusima:20200530124848j:plain

 

 馬頭観音の左手に建つ神馬舎にも絵馬が掛かっていた。

 

f:id:kotatusima:20200530124934j:plainf:id:kotatusima:20200530123447j:plainf:id:kotatusima:20200530233526j:plainf:id:kotatusima:20200530125007j:plainf:id:kotatusima:20200530134928j:plain

 

 馬の銅像が建っている。背中に御幣があるのでご神馬なのだろう。彫塑は小倉右一郎(1881~1962)による。小倉は香川県生まれの彫刻家。東京美術学校卒業後、文展で発表しフランスへ留学、ロダンに師事。戦後は郷里で高松工芸高校校長や美術展の審査員を務めた。

(参考:コトバンク 小倉右一郎 https://kotobank.jp/word/%E5%B0%8F%E5%80%89%20%E5%8F%B3%E4%B8%80%E9%83%8E-1641410

 鋳造は岡本謙三。

 

f:id:kotatusima:20200530124950j:plain

f:id:kotatusima:20200530125018j:plain

f:id:kotatusima:20200530134944j:plain

(鍛冶屋の露店)


 境内にはいくつも碑が建ち、その傍らで露店が開かれている。
 

f:id:kotatusima:20200530123152j:plain

 (馬場もある)

f:id:kotatusima:20200530123250j:plain

 (手水舎、馬頭観音の手前右手にある)

f:id:kotatusima:20200530135006j:plain

馬頭観音の由来が描かれた看板。お堂の向かって右手にある)

f:id:kotatusima:20200530233857j:plain

 (馬頭観音の向かって左の裏手にある看板。なぜか山号が違う)

 

 

・参拝の様子

 

f:id:kotatusima:20200530125033j:plainf:id:kotatusima:20200530125227j:plainf:id:kotatusima:20200530125241j:plainf:id:kotatusima:20200530125302j:plain
f:id:kotatusima:20200530131444j:plainf:id:kotatusima:20200530131350j:plainf:id:kotatusima:20200530125123j:plain
f:id:kotatusima:20200530125203j:plainf:id:kotatusima:20200530131404j:plain

 

 以上の写真は2019年の2月19日11~12時ころ、馬頭観音堂の左手奥にある本堂に、背中に御幣を立てた白馬ほか数頭がお参りする様子を撮ったものだ。掛け軸の尊像は馬頭観音だろう。
 
f:id:kotatusima:20200530123858j:plain

 

 こちらは2020年、乗馬クラブの馬たちだろうか、列をなして馬頭観音堂にお参りしている様子だ。
 

 

 

・まとめ

 

 全国的にも珍しい絵馬市はその形を少しずつ変えながら今日も馬や牛に関わる人々の信仰を集めていた。邪魔にならないようにしてまた訪れたい。

 

 

 

・(追記)2021年の様子

 

f:id:kotatusima:20210713065831j:plain

 

 一部、感染症対策で参拝の制限はありましたがほぼ例年通り絵馬市が開かれました。

 
f:id:kotatusima:20210713065556j:plain

f:id:kotatusima:20210713065411j:plainf:id:kotatusima:20210713065906j:plain

f:id:kotatusima:20210713065714j:plain
f:id:kotatusima:20210713065342j:plain

 

 だるまや食べ物など様々な露店が出ています。

 

f:id:kotatusima:20210713065921j:plain

 

 馬が続々と参拝に訪れています。

 

f:id:kotatusima:20210713065749j:plain

 

 絵馬講の看板。

 

f:id:kotatusima:20210713065801j:plain

f:id:kotatusima:20210713065149j:plain

 

 手の消毒液や手袋が準備され、お金はトレーを介してやり取りしていました。対策はばっちりでした。

 
f:id:kotatusima:20210713065153j:plain

f:id:kotatusima:20210713065228j:plain
f:id:kotatusima:20210713065115j:plain

 

 丑年だったので畜牛の絵馬とは少し違う絵柄の丑の絵馬やトラクター(!)の絵馬もあったようです。

 

f:id:kotatusima:20210713065549j:plain

f:id:kotatusima:20210713065509j:plain

f:id:kotatusima:20210713065519j:plain

f:id:kotatusima:20210713065524j:plain

f:id:kotatusima:20210713065536j:plain

 

 絵馬の隣の笹売り場の幕も生き生きと馬が描かれていて立派でした。

 
f:id:kotatusima:20210713065334j:plain

f:id:kotatusima:20210713065418j:plain

f:id:kotatusima:20210713065422j:plain

f:id:kotatusima:20210713065425j:plain

 

 いろんな露店。

 

f:id:kotatusima:20210713065439j:plain

f:id:kotatusima:20210713070008j:plain
f:id:kotatusima:20210713070019j:plain

f:id:kotatusima:20210713070024j:plain

 

 お堂の横には馬場と馬小屋があります。

 

f:id:kotatusima:20210713070152j:plain

f:id:kotatusima:20210713070159j:plain

 

 境内にはたくさんの石碑があります。

 

f:id:kotatusima:20210713070207j:plain

 

 近くの歩道橋の上から。

 

f:id:kotatusima:20210713070212j:plain
 

 馬が帰っていきます。
 
 

 
◯慈雲山妙安寺(上岡観音)・・・埼玉県東松山市大字岡1729