絵馬ブログ

絵馬、絵馬堂についてのブログ。/筆者:佐藤拓実/訪れた絵馬スポットの数:48(番外編:6)/ツイッター @EMA_blog_

氣比神社(おいらせ町)例大祭の絵馬市と絵馬殿

(氣比神社の絵馬市)

  

 青森県おいらせ町の氣比神社では毎年7月第一土曜日・日曜日の例大祭に合わせて全国でも珍しい絵馬市が行われている。今回の記事では2022年7月2日、3日に開催された例大祭と絵馬市の様子をレポートする。

 

 

 

・氣比神社の概要

 

 古くから国内有数の馬産地であった青森県南部地方に鎮座する氣比神社は、地名を取って「木ノ下のお蒼前様」などと呼ばれている。旧南部藩領に九つあった藩営牧場「南部九牧」のうち最大の「木崎野牧」と近く、馬の守護神である蒼前神信仰の拠点として知られてきた。

 境内の看板によれば、源頼朝が南部氏の祖である南部光行に命じて馬産を強化させて以来、陸奥国では生産が盛んになった。氣比神社は建久二(西暦1191)年頃に祭神が勧請されたことを創始とする。東北地方を中心に祀られている蒼前神の中で、総"おそうぜん様"にあたるのが、ここだともいう。祭神は足仲彦尊(タラシナカツヒコノミコト、仲哀天皇)。年間行事としては春の祈年祭、夏の例大祭、秋の新嘗祭がある。

 なお神社名の読みは境内の看板では「けひじんじゃ」であり、これは越前国一宮でありこの神社の本社にあたる福井県敦賀市氣比神宮(けひじんぐう)と同じだが、地元では「きびじんじゃ」と読んでいるようだ。

 

 

 氣比神社の絵馬市の習俗については文化庁により2009年に「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択されており、充実した報告書が公開されている。是非参照してほしい。

 

文化庁 国指定文化財データベース 氣比神社の絵馬市の習俗

https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/312/00000859

文化庁 変容の危機にある無形の民俗文化財の記録作成の推進事業 氣比神社の絵馬市の習俗

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/minzoku/mukei_kiroku/

青森県立郷土館ニュース写真で見るあおもりあのとき 第98回 おいらせ町・気比神社 例大祭に合わせ絵馬市

https://kyodokan.exblog.jp/18543972/

 

 

 

・氣比神社への道のり

 

 

 今回は八戸駅から青い森鉄道に乗って最寄りの向山(むかいやま)駅で下車し、駅からは徒歩で神社へ向かった。20分〜30分程かかる。

 

 

 駅前の案内看板にもやはり六角形の絵馬が描かれている。

 

 
 駅前には走る馬の彫刻が載ったオブジェがあった。

 

 
 地域の集会施設の看板にも馬が。

 


 林の向こうに神社の鳥居が見える。その奥に建っている青い屋台が絵馬市だ。

 

 

 

・氣比神社の境内の様子

 

 

 北北西から南南東へ伸びた菱形のような形の境内への入り口は複数個所あり、鳥居が4か所に設置されている。

 向山方面から行くと迎えてくれる赤い木の鳥居は境内地の西側に建っている。

 

 

 しめ縄が巻かれた石の鳥居は拝殿と本殿の正面、境内地の南側に位置する。灯篭や幟が両脇に立つ低い石段の参道があり赤い鳥居が建っている。

 

 

 鳥居と拝殿。

 

 

 立派な拝殿だ。

 

 

 横から見た拝殿(左)と本殿(右)。

 

 

 境内の地図。

 

 

 境内社の「欅蒼前神社」。

 

 

 境内社の「志乃武神社」。旧三沢海軍航空隊基地にあった神社が移されてきた。

 

 

 境内の力石。

 

 

 境内地東側の赤い木製の鳥居。ゆるやかな坂になっており、鳥居をくぐって右手に拝殿が、正面には社務所と絵馬殿がある。

 

 

 境内東側に立っている天然記念物の杉の木の看板。

 

 

 境内の北西、駐車場近くのカシワの木の看板。

 

 

 

・氣比神社の絵馬市の様子

 

 例大祭当日は早朝から境内に紙製の絵馬を売る店が設置される。

 参詣者は境内に入るとまず絵馬を購入する。私が見ていた限りだと、昨年買った絵馬を持参して絵馬屋に見せながら「黒牛を10頭」などと説明し、同じ図柄を買い求める人が多かった。この時、絵馬が要望と違えば参詣者自身が飼育する牛馬の細かい特徴も伝え絵馬屋に描き込んでもらう。名前や住所も書きこむ。次に参詣者はその絵馬を拝殿まで持っていき祈祷する。古い絵馬も一緒に持っていき神社に納める。祈祷後は絵馬を絵馬屋まで持っていき古新聞と輪ゴムで丸めて包んでもらい持ち帰り、以後一年間の牛馬の健康や多産を祈願のため、厩舎や牛舎の壁や神棚近くなどに絵馬を貼るのだ。

 絵馬屋の方に許可をとり販売の様子を撮影させていただいた。

 

 

 氣比神社の絵馬市に現在でも出店している唯一の絵馬師・三浦家は絵馬の制作と販売をはじめて現在で五代目。初代重太郎氏は五戸で書記役を務めていた元南部藩士で、二代目の重治氏の頃から絵馬の素材を板から紙に変えたと推測されている。三代目の啓吉氏は画号を「閨秀」から「啓秀」と変え、弟子もとっていた。四代目の秀雄氏は畜産事情の変容に対応し新たに牛や豚の絵馬を描くほか恵比寿大黒の絵馬も考案、また線画を印刷して合理化をはかったという。現在は五代目の教明氏が三浦啓秀の名を受け継いで製作を行っている。三浦家については先述の文化庁の報告書『氣比神社の絵馬市の習俗』に詳細に掲載されているので参考にしてほしい。

 店舗は中央の柱から右が牛、左が馬の絵馬の売り場になっている。

 

 

 向かって左側には馬を描いた絵馬が並ぶ。馬の色も体形も様々だ。線画部分は印刷とし背景や馬の体の色を手彩色したものが多くみられる。筆で描いたようなタッチのものもある。店舗の奥に飾れられた掛け軸は先代が描いた直筆で非売品だそうだ。

 

 

 牛の絵馬。黒い牛や赤い牛、白黒模様のホルスタイン種が複数描かれたものがほとんどだ。牛とともに恵比寿大黒が描かれた図柄もある。私が訪れた時には牛の絵馬がよく売れており、馬の絵馬を買う人は少なかった。

 

 

 豚の絵馬もある。色紙も販売されている。
 


 お神酒も売っている。

 



・氣比神社の絵馬殿

 

 絵馬市の屋台の後ろに絵馬殿が建っている。昭和五〇年頃に現在の社殿を新築した際に建てられたもので、明治十三(1880)年から昭和六三(1988)年までに奉納された165点の絵馬や多くの神像などが保管されている(文化庁『氣比神社の絵馬市の習俗』より)。社務所で確認したところ土間までは入ってよいが土間より先は立ち入り禁止で、撮影は全体の様子のみ可能とのこと。絵馬の数と様々な絵柄に圧倒される。詳細な記録は撮影できなかったが写真から少しでも神聖な雰囲気が伝われば嬉しい。

 

 

 私が絵馬を見ている間にも、訪れた方が賽銭箱の上にえだまめやニンジンなどを奉納していた。

 

 

 

・おまけ

 

 

 氣比神社の境内南の石鳥居の、道路を挟んだ向かいに商店がある。立ち寄ってみると「氣比の里」という日本酒が販売されていた。おいらせ町の酒蔵・桃川株式会社の商品だ。ラベルにあしらわれた馬の絵は四代目三浦啓秀によるものだろう。

 

 
 

 

・まとめ

 

 古来から日本有数の馬産地として知られる南部地方。馬の守護神である蒼前神信仰の中心地のひとつである氣比神社を訪れ、全国的にも貴重な絵馬市の様子を見ることが出来た。参詣者の需要や時代の変化に応えながら今日まで絵馬市を続けられてこられたことに敬意を表したい。あまり詳細に記事にできないのが残念だが絵馬殿の絵馬群もさすが見ごたえがあった。

 現在でも行われている絵馬市にはここの他に埼玉県東松山市の上岡観音の絵馬市があり保存会が活動している。上岡観音で販売されている小絵馬の割合は、だいたい馬と牛の絵馬が半分ずつ、他にはわずかに豚の絵馬であったことを思い出した。この割合は氣比神社の紙絵馬とも共通するように思える。畜産農家の需要を反映した結果なのだろうか。また上岡観音でも気比神社でも、参詣者は飼っている馬や牛に近い絵柄の絵馬を求める点や、絵馬は寺社に奉納せず護符のように厩舎などに飾る点など、いくつか共通点があり興味深い。

 

 

 

○氣比神社(おいらせ町)・・・青森県上北郡おいらせ町上久保51-1